居場所から始める設計
設計のスタート地点は大きく分けて二つあります。間取りからのスタートと、居場所からのスタートです。間取りから考え始めるのはわかるとして、居場所からとはどういうことでしょうか。
間取りからのスタート
日本人は不動産チラシを見慣れていて、しかも6畳とか8畳など、部屋の基本単位を体験的に知っているため、平面図の理解度がとても高いようです。世界一かも知れません。
そして、3LDKのマンションが広く普及していることから、多くの人が普通の家は似通っているものだと考える傾向があるようです。
そうした環境下で、間取りという言葉が示すように、設計とは「箱の中の部屋割りをすることだ」と考える人がいても不思議ではありません。
一戸建て住宅の場合は、敷地の南側に庭を取って、車庫スペースを避けて四角いエリアを描き、それが必要と思われる面積を満たしていたら、2階を含めて3LDKか4LDKに分割し、収納を工夫し、内装仕上げと設備機器と外壁を選ぶ・・・という流れがあります。
家作りの重点が、性能やコストを比較してのハウスメーカー・工務店選びに置かれるようになるのは、きっと自然なことでしょう。
これは手本の多い進め方ですから、早く見通しが立って失敗の可能性も低いでしょう。多少の問題があるとすれば、家具が上手く調和してくれるか不安なことと、これこそが自分の家だという確信や愛着を、やや持ちにくいことです。
居場所からのスタート
上に対して、居場所からスタートする設計を考えてみます。
「居場所から」とは、言葉を換えれば「身体から」と言っても良いかもしれません。
まず、草原でもホテルの一室でも、快適に過ごした時間を思い起こしてみます。そして、いくつかの記憶を観察して、快適であった理由を探してみるのです。
もちろん、快適であった理由が設計に関係するとは限りません。忙しい日常から解放された喜びや、そばに居る人の楽しげな様子だったかも知れません。
でもそうだとすれば、住まいの中に、日常から少し離れられる場所を作ることや、家族と寛ぐのに、丁度良い距離や仕掛けを想い描いてみてはいかがでしょうか。キャンプの思い出なら、時々は家族みんなで調理できるキッチンを考えることもできるのです。
あるいは、揺れる葉を見ていたどこかのロビーや、雨の舗道を見下ろした喫茶店の片隅などもあるでしょうか。音楽は鳴っていましたか?
そして考えてみましょう、自分がリラックスできる場所の具体的な姿を。
深い椅子なのか、あるいは座布団なのか。机はあった方が良いのか無い方が良いのか。椅子の材質や、その椅子と床材との相性、肘掛けと窓の高さの連続性など、欲しい要素が、特に設計者を交えれば、たくさん浮かび上がってくることでしょう。
朝目覚めたときに眺めるもの。本を読む場所。絵を飾る壁。
身体が喜ぶ要素で、場所を組み立てていくのです。
それは、ドラマチックなものではなくて、普通の家の微調整かも知れません。でもその微調整が、固有の場所としての安らぎを与えてくれるはすです。
そして、その場所と次の場所、自分の場所と家族の場所、というように、全体が滑らかに連続していくと、それはひとつのシーンではなくて生活全体に身体の喜びが波及することを意味します。
これを実現する過程が、私たちの考える「居場所から始める設計」なのです。