Value Competition の勧め

価格や性能だけでない、総合的な満足度で比較することを提案します。

坪単価25万円~100万円の不思議

次のような質問を何度かいただいたことがあります。

 

 『TVコマーシャルやチラシで坪単価25万円~という宣伝を見かけますが、本当にその単価で家が建てられるのでしょうか。
住宅雑誌を見ていると坪単価50万円とか80万円というように、先のチラシよりずいぶん高く紹介されていますし、ハウスメーカーのモデルハウスには100 万円を超えるものもあると聞きました。ある程度の幅があるのはわかりますが、3倍・4倍も違いが出るのはどうしてでしょうか。』

 

 不思議に思われる気持はよくわかります。これから家の新築をされる方なら、
『建設費の目安をどこにつけたらよいかわからない』
と感じられることでしょう。

 

 ここに出た25万円と100万円の中間点は62.5万円で、ほぼ首都圏の平均坪単価と言えるものです。(東京はもう少し高くなっています) ですから、中間点の62.5万円から25万円に下げようとするのがコスト圧縮の試みで、逆に62.5万円から100万円に上がっていくのが付加価値追求の試みと言ってもよいでしょう。

 

 付加価値追求の側は、最新技術や有名プランドの設備、また、高級な仕上げ材など、高価なものを採用することで容易に積み上がってしまいます。これは、基本性能を超えたフリーハンドの部分なので、ここではコスト圧縮側を考えてみることにしましょう。

 

 では、平均的な坪単価である62.5万円を、1/2.5の25万円に圧縮するスーパーテクニックがあるのでしょうか。

 結論から言えば、そうしたものはありません。
 25万円の家はあります。でもそれは、≪どんな家でも坪単価をどんどん低減して25万円にできる方法≫があるということではありません。

 そうではなくて、≪坪単価25万円の家を開発した会社≫、があるということなのです。つまり、この25万円の家は、営業から設計・流通・管理・メンテナンスまで、一貫した独自のノウハウによってこそ実現できるもので、これを見た他の会社が真似したり、簡単に取り入れたりできる性質のものではないのです。

 

 

 

低額帯を実現するノウハウ

 低額建設を実現するノウハウとはどのようなものでしょう。パンフレットやインタビュー記事、ヒアリングなどを通して見えてくるのは次のことです。

 

1 プランニングに時間をかけない。もしくは間取りの決まった規格型住宅である。
2 工期が短い。従来4~5ヶ月かけてきたものを半分程度の期間で引き渡ししている。
3 仕上げ・設備が決まっている。もしくは少数のパターンから選択する。

 

 これらはコストの圧縮に必須のもので、これによってメーカー側は次のことを担保します。

 

1 設計や工事工程を単純化することで、管理の多くを自動化して人手間を減らす。
2 部品や施工方法を共通化して工事をわかりやすくし、作業の遅滞や施工ミスを防止する。
3 建材メーカーに、同じものを大量かつ継続的に発注することで、圧倒的に安く購入する。

 

 これら3点をよく見ると、共通してスピードを求めていることに気付きます。そして同時に、現場が滞る原因を徹底的に排除していることがわかります。(道を真っすぐにして障害物を全て取り除くと言ったらよいでしょうか)
 着工までに時間をかけず、そして引き渡しまでの時間を短縮することは、人件費の削減に効果を上げます。そして、その効果を失わないためには遅滞防止が必須なため、現場ではあいまいさが排除され、明解であることが求められるのです。


 住宅建設は、工程が複雑でしかも現場が点在してるため、工程ごとに人件費を割り出して合理化を進めることは大変難しいとされてきました。そこで、予め時間を限ることで人件費の入り込む器を小さくし、無駄の生まれる余地をなくしているのです。
 低額帯の住宅が地方都市郊外に多く、都心部にあまり見られないのは、都心部に高級志向があることも関係しますが、小さい土地に限度いっぱいに複雑な家を建てることに、こうした体質がそぐわないからというのも大きな理由です。

 

 このようにみてくるると、坪単価25万円の家は従来の積み上げ方式とは異なった、初めに総額を決定する新しい手法の家作りだと言えるでしょう。(もちろん25万円とされている家も、別途工事などによって結果が違うことがありますが、それは後に触れます)

 

 

 

坪単価はハードとソフトの合算

 価格競争力で先頭を走る「25万円~」の様子がわかりました。では、坪単価40万円台・50万円台は何に影響を受けているのでしょうか。それをうかがわせる、あるひとつの例をあげます。


 以前、知人があるハウスメーカーの廉価なシリーズで家を建てたときの話です。
 プランの詳細が決まる前に契約して、変更が生ずれば清算することになっていました。着工に向け準備が進む中、知人は当初より悩んでいた階段の位置を変更することにしたのですが、メーカー側はなかなか対応してくれず、同時に出した出窓の追加要望も、一か所増えるだけで※十万円かかると聞かされ、どうしたものかと私に連絡してきたのです。
 ハウスメーカー側としては、確認申請を出すばかりと思っていたところに変更の希望が出されたため、更なる変更を不安に思ってか、すぐさま打ち合わせをしようとはしない様子でした。
 知人は、「これから作る家なのだから、階段の位置の変更もあって良いのでは・・・」と思うようで、それは当然でもあるのですが、メーカー側は、構造の再検討はその人員を充てていなかったためスケジュール的にも簡単には進められなかったようです。


 最終的に、知人は納得して着工日を迎えることができましたが、この件から2つのことが読み取れます。

 そのひとつは、詳細の決定前に契約をすると、その後の増額がストレスになりかねないこと、もうひとつは、一旦契約して予算組みができてしまえば、営業と設計のバックアップも有限となるということです。

 坪単価、つまるところの建設費は、建物の材料や設備機器の価格に工事業者の人件費を加えたもの、即ちハードの部分と考えがちですが、これら直接工事費と呼ばれるものは全体の6~7割でしかありません。残りは各種の経費と利益で占められる訳ですが、この経費の中に営業や設計の人件費などの、いわゆるソフトの部分も含まれます。つまり、打ち合わせの回数やそろえる資料の量や質も坪単価の一部なのです。

 廉価なシリーズで仕上げ材を限定する傾向があるのも、建材を安く仕入れる発注戦略ばかりでなく、選定に時間をかけない工夫でもあるのです。


 建て主がカタログを見て、そのシリーズが選択肢を絞り、設計時間の短縮を図っているかどうかを読み取ることはまずできません。しかし、このことを意識せずに選んでしまうと、期待通りの打ち合わせが行われないという不満に繋がりかねません。設計期間や進め方をヒアリングし、全体の流れをできる限り把握しておくことが求められます。

 坪単価40~50万円の家は決して安いものではありませんが、平均坪単価から圧縮されていることを意識して、詳細決定後に契約をするなど、進め方に留意する必要があるのです。

 

 しかしこのことは、坪単価の低い住宅が建て主の満足度を低くしてしまうことを意味してはいません。むしろ逆に、坪単価の低さを個性ととらえて、上手に家を建てている人もいらっしゃることを紹介しましょう。

 

 

 

さまざまな家作りのスタンス

 これまでは、可能な予算をぎりぎりまで投入して少しでも良い、あるいは立派な家を作ろうとするのが一般的でした。しかし最近では、住宅を半既製品と割り切り、コスト配分を見直す新しい家作りの概念も現れています。


 例えば、細かな部分のこだわりを封印して、スピーディーに建てることで坪単価を抑え、資金を地下や屋上の面積を増やすことに回して、広い家での多様な暮らしを楽しむ人がいます。
 また、規格型住宅を選んで坪単価を抑え、浮いた分を好きな家具や装飾品の購入に回す、という楽しみ方もあるようです。
 感心させられたのは以前相談に見えた方で、20年だけ住む家と決めていて、その間の家賃の合計から建設費総額(坪単価とも言えます)を決めていらっしゃいました。

 

 このように家作りのアプローチが多様化したのは興味深いことですが、それでもやはり、

1 自分達家族の特徴が最大限活かされる工夫に満ち、

2 敷地の長所を引き出し、

3 周辺環境と響き合うような

 

オリジナルの家を欲する人も少なくありません。

 

 この実現には注意深い観察と試行錯誤を経た解答が必要で、坪単価の上昇に結びつくとしても設計期間を充実させ、幅広い検討と細かな選択を積み上げることが求められるでしょう。

 これらのことは、家作りにあたって価値をどこに求めるか、ということを建て主に投げかけます。

 25万円から100万円の、どこから入っていくかはその答え次第なのです。

 

 

 

Value Competition の勧め  ・・・まとめ・・・

 と言うものの、本当に自分に合った家作りがどのようなものか、それは多くの場合、家作りの最後のほうになってようやくわかるという性質のもので、そう簡単に決められません。ですから、初期の段階でできることは、ごく大掴みの概算見積りを、複数のタイプの家作りで取得してみることかも知れません。

 

 一般的に、建設工事にあたっては見積りを何社かに依頼します。複数のハウスメーカーや工務店に価格競争してもらうことは、適正価格を知り、自信を持って発注するために大切なことです。その際、だいたいの人は同じようなグレードから対抗馬を選んできました。そうしなければ競争にならないと考えたからです。でもここでもう一社増やして、異なるグレード・異なる建て方にまたがって、コストの違いを前提としたバリュー競争を考えてみてはいかがでしょうか。

 

 オリジナリティを追求した家と、それに近いプランを持つ規格型住宅などの低額帯の家を比較してみるのです。おそらく、見積り額は大きく違ったものになるでしょう。その金額差とオリジナリティの価値を秤にかけてはいかがでしょうか。そうすればきっと発見があり、自分の欲しいものが何か、よりはっきりと意識できるに違いありません。

 

 この過程を経て低額帯を選ぶ人は、その価値を知りぬいて決断したことに大きな自信を得、高額帯を選ぶ人は、そこに投じる資金に誇りと喜びを見出せると思うのです。