家の中を明るくするには
家をサッカーチームに喩えるなら、南面の窓はフォワードでしょうか。そうだとすると、北面の窓はディフェンダーです。
良いチームは攻守のバランスが良いように、良い家は4面の窓がそれぞれ活躍します。
先日、既に別荘をお持ちの方と新しい別荘の打合せをしているとき、経験者ならではのご指摘がありました。
「南の景色は暗い」
というのがそれで、言われてみると「その通りですね」と膝を打ちたい気分になります。でも、そのことをこんな風に簡潔に言い切る方は始めてでした。
もうだいぶ前になりますが、赤坂アークヒルズの25階くらいにINAXのショールームがありました。設備機器や建材を展示する本来の用途に加え、環境音楽を使いながら景色を創造する提案などがありました。
ですから、必ずしも機器選びの目的がなくても出掛ける十分な理由があり、時間ができると足を向けたものです。
そして、ショールームに隣接したカフェから東京の街を見ているのもとても好きでした。
静かで豊かな気持ちに沈んだまま、その場所の何が魅力的なのかぼんやり考えているうちに、見下ろしている赤坂の街がこちら側に傾斜していて太陽の光を存分に受け止めているからだと気付きました。
赤坂ですから、一軒々々を眺めて楽しい工夫が見つけられたこともありますが、何と言っても窓全体が明るく映えていたのでした。(陽射しが差し込まないにも関わらず、いえ、陽射しが差し込まないからなのでした)
アメリカの郊外型住宅地では、南側道路が尊重されると聞きます。これは一見日本と同じように見えてずいぶん異なっています。
彼の地では町並みを公共財と考えますから、塀を立てることは一般的にタブーとされて、道路からは前庭の芝生をはさんで建物(玄関)が配置されます。そのため、南側道路であれば庭は家の北側となりますが、この庭は室内から順光で見られるので明るい景色となるのです。
日本でも、神社仏閣の庭は同じように配慮されているでしょう。
夏以外に、ふんだんな太陽光を求める気持ちはよくわかります。暖かいばかりでなく、日光の乾燥・殺菌作用も期待されているでしょう。
この気持ちに加えて、「家は夏を旨とすべし」の教えを尊重し過ぎると、南面ばかりに大きな開口部を設けた家になりがちです。実はこの教えは庇を深く出して・・・と一体であるべきなのですが、土地面積の限られた住宅密集地ではこれが忘れ去られてしまいました。この結果、明るいと言うよりはまぶしい(そして景色の暗い)南側窓が出来たのです。
その南を志向する気持ちを大切にしながらも、北側の景色の明るさに注目してみるとまったく違った奥行き感の家になります。
北側の開口部は、南側から風を取り入れるために(風の出口として)重要ですが、家の四方から性質の違う光を取り入れたとき、記憶に残る住まいになるでしょう。