不良工事防止策

 いよいよハウスメーカーや工務店を決定しようという段階になった時、意外と多い質問が「どのようにして手抜き工事・不良工事を防いだらよいのでしょうか?」というものです。

 

 そうした心配が残ってしまう会社とは契約をしなければ良いだけですが、仮に信頼できていても、初めての家作りという不安に加えて世の中にはさまざまな情報があるため、誰でも一度は考えずにいられないのでしょう。

 

 最近、この質問に加えて 「A+に第三者として不良工事をチェックするサービスはありませんか?」 という問い合わせをいただきました。返信を書きながら、これまで同じことを何度も申し上げてきたことを思い起こし、みなさんにお知らせするためにここに紹介することにしました。

 以下は返信したメールをベースにして、少しだけ加筆・修正したものです。

NA様

 

 メールをいただいておりましたのに、返信が遅くなり失礼いたしました。

 未明まで図面を描いて、朝早くプリントアウトしてから打合せを終えてきました(笑)

 

 すぐに返信できず、なんとなく思わせぶりになってしまったのはなかなか難しい内容だからです。

 

 それでは、不良工事防止策について、私が現場で感じていることを申し上げます。

 

 あくまで私の知る範囲ですが、検査業務を請け負っている会社は、工事の結果責任を取りません。何故かと言えば、しっかり設計事務所が張り付いていても事故は起き得るのですから、数回の検査で全体の品質を保証するというのは、もともと無理なことなのです。

 ですから、そうした会社のやり方は、予め決められた検査項目を機械的にこなしてレポートを提出するというものです。

 もちろん、多少の抑止効果はあると思いますが、仮にその後何かあってもアドバイスをするだけで、工務店を指導したり、間に入って解決を目指したりすることはありません。

 

 

(付記: ここで言う指導・解決こそが建築士のすべきことで、仮に建築士が工務店の社員だったとしてもこの役割を全うしなければなりません。その建築士を信用できず他の人に再検査を求めるのは、例えば雇ったガードマンに監視ガードマンを付けるようなもので、それくらいなら初めのガードマンを交替させた方が合理的ですっきりします )

 

 

 もちろん、建物基礎の配筋量が足りないなどの、最も基本的な品質は少ない検査でも確認できますが、その程度でしたら義務づけられた瑕疵担保保証の検査で済んでしまうのです。 それに、それくらいのレベルでミスをする工務店はその他全てが心配な状況で、慎重に選んだ工務店で起こる内容ではありません。

 反対に、以前お話しした配管の逆勾配などは、よほど疑ってじっくり調べない限り、発見することは難しいでしょう。更には、配管勾配であれば流した段階で判明しますが、目立ちにくい箇所での漏水や断熱材充填の巧拙などは、外部検査ではまず確認できません。

 

 

(付記: お客様は安心をお金で買いたいのだから要点を押さえれば良いのだ・・・などと自己否定のような話をする人もいるのですが、その安心なら保険に切り替えるべきで、そうすると瑕疵担保保証に戻ってしまいます。また、安さだけで決めた工務店に対して、監視によって品質確保を実現するのは、誰が担っても不可能です )

 

 

 ここで視点を変えて事故の原因側から見ると、ほとんどの悲惨な事故は、工務店の経営の問題から起こっていることがわかります。

 地盤調査を怠って不同沈下を起こしたり、職人の技能を把握しないまま任せてしまったり、資金詰まりから下請け会社が手を抜いたり、工期管理ができずに仕上げの順番が逆になって歪みを生ずる・・などです。

 

 ということは、長期優良住宅などを理解する力があって、現在の経営状態が逼迫していなければ悲惨な事故は大変起こりにくいものだと言えます。

 また同時に、先に申し上げたように小さなミスはゼロではないので、これは発見され次第解決されれば良いのだ、と覚悟を決める必要があるのではないでしょうか。もっとも、そんな小さなミスだって、たまにしかないものですが。

 

 

 次に工務店側のモチベーションについて考えてみます。

 

 私は設計監理の側でミスを発見すべき立場ですが、役所や機関の検査を受けることは楽しいことではありません。ここで申し上げるケースは品質確保とは違って、私自身が全責任を負うべき高さ制限などのチェックです。お客様の利益の最大化のために、建築基準法ぎりぎりを狙うからですが、検査を受けるということにはやはり緊張があります。

 

 公的に求められた検査ですらそうなのですから、自分たちの建てている住宅を建て主が第三者に検査させて、細かな指摘を受けることはかなりのストレスになります。

 それらを喜ぶ度量のある監督さんは、むしろまったく検査が必要ないくらいきっちり仕上げてくるでしょう。

 そして、些細なことに引っかかって下がってしまったモチベーションは、なかなか回復しないところがやっかいなのです。

 

 建て主にとっては一生に一度かも知れない住宅建設も、彼らにとっては日常ですから、適当に流してしまう仕事が無いとは誰にも断言できません。

 

 こうしたことから私が一番大切だと思うのは、設計者だけでなく現場監督さんとの信頼関係をいかに築くかということです。

 何も仲良くする必要などはありません。それでも、お客様が心配されるかも知れないことがあったら電話で知らせてくる、と言うくらいのコミュニケーションが存在すれば、悲惨な事故は決して起こりません。加えて、現場が信頼されて関係者に自信が生まれれば、活き活きと楽しい雰囲気になって大工さんの集中力も増そうというものです。

 

 

(付記:この点から、現場監督さんを裏方の手配師にしてしまっている工務店さんが、いかに利益至上主義なのかがわかります。誠実な工務店さんは、お客様の気持ちに応えられる監督さんを必死に育てるものです。)

 

 

 職人さんは評価されればとことん頑張るのですから、気持ちよく仕事をしてもらうことは大切です。

 

 

 さて、私はこのように考えますので、お尋ねいただいたような検査を、ニーズがあると知っていても、有償サービスとして設けることはしておりません。

 それでも必要な場合は、契約を伴わないアドバイザーとしてなら出向くことができます。その場合、現場滞在時間と移動時間を合わせて半日と見れば、1回あたり2万円(交通費・税込み)くらいが相当でしょうか?

 

 プランニングについてのアドバイスなどは基本的に無料で、打合せに参加するなどの実働がある場合は上の日当と同じ考え方になります。

 

 もちろんこれは、「どうしても」という時の参考情報ですので、お聞き流しください。現場を本来あるべき環境に戻すまでの、経過措置なのかも知れません。

 

 NAさんご夫婦の、几帳面なご様子には相応しくない回答かとも思いますが、私なりに考えてのことですので、至らぬ点はご容赦ください

 

 いつでも気になったことをご連絡ください。お待ちしています。

 

荒美

提案

 これは最近考えるようになったことですが、契約の前に現場監督さんと面談するというのも良いかも知れません。

 契約の動機に自分の評価が加わっていると知っていれば、監督さんは否応なく責任を感じ、やる気も相当アップするのではないでしょうか?

 もちろん、面談の意味と期待をよく説明しておかないと、つまらない齟齬ともなりかねません。しかし、優秀な工務店は社員全員が勉強会をしており、この人では不安・・・という可能性は低いものです。

 

 家作りにおいて、お客様の求める品質を理解し発注するのは建設会社と設計事務所ですが、実現させるのは現場監督さんだということを、もう一度考えてみたいですね。