A 家族のコミュニケーションを活発にするプラン
A-1 アイランドキッチン
キッチンタイプには以前からI型やL型、独立室型、対面カウンター式などがありました。最近はこれらに加えて、アイランドキッチン(や、ペニンシュラキッチン)が頻繁に見られるようになりました。(ペニンシュラキッチンとはアイランドキッチンの仲間で、短辺のひとつが壁に接しているものを言います。・・・半島と島の違いですね)
キッチンを選ぶとき、使い慣れたタイプから予算に応じた仕様を選び出す傾向がありますが、少し違った視点を紹介します。
それは、将来まで見通して、何人くらいでそのキッチンを使うかを考えてタイプを選ぶ方法です。
ある人が独占して管理するキッチンがあるでしょうし、家族で食事の支度などを分担することも考えられます。また、兄弟や友達を呼んでみんなで使うキッチンだってあるでしょう。こうしたそれぞれのライフスタイルに合ったレイアウトを探し、使いやすいようにアレンジを加えたらいかがでしょうか。
アイランドキッチンは、キッチンの周りを家族が取り囲めるようなスタイルです。コミュニケーションを取りやすい利点と、目に触れやすいため小まめに掃除しなければならない、という欠点?があるようです。
A-2 勉強コーナー・書斎コーナー
多くの家庭では、子供の成績アップも期待して、集中できるようにと個室を与えてきました。
ところが最近、「子供部屋でひとりで勉強する子供より、ダイニングで勉強する子供の方が成績が伸びる」という話も聞こえてきて、個室一辺倒の考え方に変化が見られます。
大人の側でも、住宅面積が大きくなるにつれて個室が欲しくなり、書斎や主婦室などが流行ったことがありました。しかし、個室重視が家族のすれ違いを助長するという指摘もあって、最近は個室の確保より家族が好んで出てくる場所作りに関心が移ってきているようです。
リビングのテレビを小さめにして勉強や趣味、仕事のコーナーを作る人もあり、従来のリビングというイメージが家族の個性によって変わってきています。
こうしたコーナーを階段の踊り場や、リビングを見下ろせる吹き抜けのそばに設けた例も見られます。
A-3 リビング階段
子供の登下校や家族の出入りの時に、顔を見て言葉を交わしたいという気持ちから、リビング階段が注目されました。
2階に個室がある場合、玄関~階段~個室という導線が他から独立していると、そのまま部屋にこもってしまいがちだったからです。
「我が家はあいさつできるから大丈夫」という声も多くて、リビング階段がそのまま主流になることはなかったのですが、最近、また注目されています。
それは、工法の進歩によって広い空間が作れるようになったため、「引き」ができて見栄えよく計画できるようになったことと、階段と吹き抜けを合わせた立体的な家作りに関心が集まったからでしょう。
吹き抜けには、空間的な解放感ばかりでなく、家族の気配が感じ合えるという利点があるからです。
一方で、吹き抜けには面積が増えないのにコストがかかりますし、冷暖房が効きにくいので注意が必要だという指摘もあります。全館空調などで対応できますが、これにはイニシャルコストがかかります。このため、床暖房などの輻射暖房(空気を暖めない日向ぼっこのような効果)で補ったり、高機密住宅にしたりして空調効率の向上を図ることが求められます。
A-4 みんなの家事コーナー
洗濯物を集めて・洗濯機をセットして・干す。その後、取りこんで・アイロンをかけ・たたんでしまう・・・という一連の仕事は、どのようにしたらラクで楽しいものになるでしょうか。
家作りを物干し場から考え始める人は無いですし、優先順位の上の方にもないようです。でも、日々繰り返す仕事ですから、少しでも楽しくできるように計画段階から工夫を加えたいものです。
「今の社会は皆が仕事や役割を持って忙しくしているので、家事を皆の見えるところに配置することが大事だ」という意見があります。それはきっと家事を家族のコミュニケーションととらえる姿勢なのでしょう。
ひとつの例として、物干し場に近い廊下などに、2畳程度のタタミコーナーを考えてみます。子供がそこに洗濯物を取りこんでくるだけでもそれは立派な仕事になり、感謝されればきっと嬉しく励みになるはずです。時間ができた人がアイロンをかけてまとめ、家族それぞれが自分のものを取りに寄るという方法も考えられます。
このタタミコーナーに、次の項目に挙げた共有本棚を置いて、読書コーナーや昼寝コーナーを兼ねるのも楽しいかも知れません。
A-5 共有本棚
家族の歴史が見える、アルバムとしての本棚を紹介します。
豪華本や百科事典を別として、ふつう本棚はそれぞれの個室にあります。そして多くの場合読み返す本は限られていますから、そのほとんどは死蔵されていると言っても良いかも知れません。そして、だんだん増えていくことで部屋を窮屈にしていることも珍しくありません。
そこで、家の階段室の一部やリビングの一角、廊下のアルコーブ(少し引っ込んだところ)などに共有の本棚を作り付けて、ここに各自の本を持ち出してみましょう。すると、本は家族の共有物になります。
子供が小さければ、親がその本を手に取ることで体験の共有ができるかもしれませんし、子供が成長していれば読書のレパートリーをお互いが増やすことにつながるかもしれません。
蔵書を目にさらしておくことでリサイクルが促進され、いつか大量処分される死蔵本を減らすことも期待できます。
そして、思い出を伴って手放せない本が並んだ様は、家族の成長を記録するアルバムともなるでしょう。
A-6 リビング収納
昔の大きな家には、応接間と客間、主人の部屋と家族の部屋がありました。現代でも欧米では、お客さまを招く部屋と自由に過ごすファミリールームがそれぞれ作られると聞きます。
核家族が主流となった現代日本では、持ち前の器用さからこれらを一室にまとめて、リビングルームと呼ぶようになりました。
しかし、その性格付けがあいまいだったためか、一番人のいない部屋になっていることも多いと聞きます。団らんという時間が減っているようですし、あってもダイニングの方が向いているようなのです。
美しく暮らしたい欲求と、楽しく活発な日常でありたいという欲求の、共存・両立が私たちの長きにわたるテーマなのかも知れません。
そのために有効なもののひとつにリビング収納があります。
美観を優先して、収納のないリビングに物を持ち込まないようにしていると活発化が望めないからです。寝室に作る収納とは違った、機能とインテリアを兼ね備えた仕掛けを工夫できないでしょうか。
例えば、リビングの一辺に廊下状のものを作り、その中の壁一面を収納にしてしまえばアトリエのような雰囲気ができるかも知れません。このように、タンスやクローゼットと言った箱型のもの以外で、スペースとしての収納を考えてみても面白いのではないでしょうか。趣味のものが手近にあれば、見せたくなるし、見たくもなるでしょう。
A-7 特別室
ここでの特別室とは、ふだん決まった用途を与えられていない部屋を指します。
イベントのような、少し日常と違う出来事に対応するための部屋です。4.5帖で充分でしょうし、場合によっては3帖でも有効かもしれません。
期末試験に向けて合宿(籠って集中!)したり、出来た作品を展示したり、ひな人形を飾ったり、それに友人を泊めたりもできて、忙しくて変化を感じにくい日常に刺激を与えるための部屋です。
茶室のようなものだとも言えますが、床の間のように使わずに大切にするだけでも、何か豊かさを感じさせる装置にならないでしょうか。
A-8 デザインから場所作りへ
一般的にデザインという言葉は視覚的な操作をするものだととらえられています。ひとがデザインに熱心に取り組むのは、目を喜ばせるということがありますが、目の喜びはその前の存在の確かさなしには成り立ちません。
古民家に住んでいる、鋭い切り口の工業デザイナーがいます。彼は何を見ているのでしょう。
「見た目」から「居心地」に視点を移し、「響き合い」を探ることで、家の奥行がずっと深まるように思われます。